お侍様 小劇場 extra

    “夏は来ぬ?” 〜寵猫抄より
 

昨日、関東の某所で竜巻というのが起きて、
家屋や工場の壁を引きはがし、何台もの車を薙ぎ払い、
窓ガラスを片っ端から砕いたほどの騒ぎがあったらしく。
上空から見た惨状の図は、
どれほどの化け物が押し通ったかを歴然と示してもおり。

 「凄いねぇ、久蔵。」
 「みぁ〜ん?」

あんな竜巻が突然襲って来たんじゃあ、
人なんてどんな抵抗をしたところで、吹き飛ばされちゃうんだねぇと。
ちょいとお行儀は悪かったが、リビングにてテレビを観つつのお昼ご飯。
ローテーブルを食卓としての並んで座り、
とろとろの半熟玉子にお醤油かけたの、
ほかほかのご飯に和えて、お匙に掬い、
どーぞと差し出してくれた七郎次の手が。
あとちょこっとというところで止まってしまったので、

 「なぁ〜ん。」
 「あ、ごめんごめん。」

愛らしいその身をよいちょと伸ばし、
小さな前足で、ちょっとちょっととじゃれつかれ、
やっと我に返ったお兄さん。
ごめんなさいとの苦笑と共に、
小さめのお匙をちょいと揺らし、
坊やのお口へあらためて差し出せば。
あ〜むと頬張り、そこをぱふりと、お手々で口塞ぐ、
天使様の目許がたわみ、得も言われぬ笑顔を見せるのがまた、

 「〜〜〜っ。///////」

お給仕係のお兄さんのお胸をつらぬく威力も抜群。
さあ皆様、ご一緒にっvv(…って、もうええて)

 「昨日の竜巻か?」
 「え? あ、はい。」

仔猫のあまりの愛らしさ、
飽きも懲りもしないまま、あああと身もだえしていたの、
すうと引き留めてくれたのは。
そちら様へは先んじて、おむすびを差し入れてあった御主のお声。
香の物やみそ汁と共にと持ってった盆を、
わざわざ下げて来てくださったらしいのへ。
ああすみませんと七郎次が立ち上がりかかったの、
やんわりとたわめた目許で押し留め。
その同じ眸をテレビ画面の方へと向けると、
その惨状へと ふ〜むと唸っておいでかと思いきや、

 「家やら田畑やらがこうまで小さくなった遠景では、
  久蔵には何が何やら判っておらぬやも知れぬな。」

 「? そういうものでしょか?」

自分たちだとて鳥のように飛べる身でなし、
飛行機にでも乗らねばこうまで見下ろせぬ風景なれど、
ジオラマのようなこの風景が、
高みから見下ろした地上であるとの理解は自然と出来るのに?

 「だが、そんな儂らの何倍も小さな身をしておるのだぞ?」
 「あ…。」

大人になったとて、人がそのお膝へ抱えられる大きさが限度の仔猫さん。
自力で登れる高さにも限度があろうし、それに。
今はまだ、この家と、家人と共に遠出したおり、
泊まることとなったお部屋の窓から見た風景くらいしか、
その蓄積にもない身だよって。
テレビ画面の中にある大地が、人里の俯瞰だなんてこと、
まだまだ理解出来るものじゃあないのかも。

 「…そっか、そうですよね。」

勘兵衛からの説明に、な〜るほどと納得がいったらしく、
うんうんと何度か頷いた七郎次。
やわやわなお手々でにゃあにゃあと、
こちらを急っつく王子様からのおねだりに気づき、
あややごめんねとの、苦笑再び。
玉子の香ばしさも食欲そそる、
まだ十分に温かで、猫舌な彼にはむしろ丁度いいご飯、
今度はおかかもちょこっとかけての差し出して。
あむあむ・うふふvvと、
存分に堪能してるの、幸せそうに眺めやる。
今度こそはとその手も止めずに、

  竜巻なんてのは、
  アメリカのように広大で平坦な土地でのみ
  起きるものと思っておりましたが。

  昨今では、ゲリラ豪雨を招くという、
  “ダウンバースト”とやらを引き起こす、
  突発的な上昇気流が起きやすい気候になっているらしいからの。

すぐ傍らへと腰を下ろした勘兵衛と、
そんな会話を交わしておれば。
何とも言えない優しい想いが、総身を巡ってほわりと温か。
もしかせずとも傍からは、
そう、丁度サイドボードのガラス戸に映っているそれのよに、
お手玉みたいに小さな小さな、
キャラメル色したふわふかな毛玉の如き、
メインクーンの仔を挟んでの、主従が寄り添う様にしか見えずとも。

  にぃあvv
  はぁい、なんですか?
  そちらの鰹節、もちっと欲しいのではないか?

ほれほれと指先へ摘まんだ削り節へ向け、
小さな坊やが赤い眸を輝かせ、
ふくふくした幼い手で大きな手ごと、
えいやと捕まえるのを。
そちらも好きにさせてやる勘兵衛の、
和んだ目許がまた、

 「〜〜〜〜っ。////////」

ああもう、どうしてくれようかと切なくなるほど、
敏腕秘書殿の総身をふんわり暖める。
お仕事への集中、それも油断のならぬ天敵論客との、
ディベートを構えた席でのお顔なぞ、
何とも鋭く、男臭くての威容にあふれ。
彼自身の写真だのプロフィールだのを企画しても、
女性愛読者へ十分受けるというのが、
重々頷けもするというもので。
そのような、
熟成遂げた大人の余裕や、落ち着きの重厚さと、
そのくせ、懐っこい柔和さをさりげなくお持ちの、
精悍な頼もしさとか雄々しさだけに収まらぬ、
柔軟自在で温かな懐ろの広さよと。

 「にゃぁあん、みぃあvv」

お腹いっぱいまんまんぞくと、
ご機嫌さんなお声を出してる仔猫の王子ともども、
うふふとやに下がっておいでの恋女房が、

 “?? しょうがない奴よの。”

こちらもまた、可愛ゆうてしょうがないらしき、
島田せんせいらしかったりするのです。




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